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東京地方裁判所 平成5年(モ)4744号 決定

主文

本件免責を許可しない。

理由

一  一件記録及び破産者審尋の結果によれば、以下の事実が認められる。

1  破産者は、昭和二一年八月一日生まれで、高校を卒業後しばらく調理師をしたりした後、昭和五九年から昭和六三年まで不動産会社に勤務し、その後は個人で無資格の不動産のブローカー業務をしていた。

2  破産者は、昭和五五、五六年頃、友人から借りたりした金員を知人に約五〇〇万円貸し付けたが、返済がなされず、友人への返済資金を捻出するため、昭和五六、五七年頃、韓国へ渡航し、バカラ賭博をしたところ、運良く勝ち、借金の返済をすることができた。そこで、破産者は、韓国でバカラ賭博を繰り返すようになり、父親から約二〇〇〇万円借りたほか、サラ金や銀行等からも借り入れを繰り返して約二〇〇〇万円の債務を負担したが、サラ金等からの借金についても昭和六三年頃に父親の肩代わりしてもらい返済した。

3  破産者は、その後知人の保証債務を約六〇〇万円負担したほか、昭和五九年頃から不動産会社に勤務していた当時、接待交際費として借り入れを続け、債務が増加した。この当時、破産者の年収は多いときで、約二〇〇万円しかなかったにもかかわらず、接待交際費として、月平均二〇万円以上の支出を続け、これを三年間続けたため、負債が増大したものである。

4  以上の結果、破産者は、平成四年四月九日、債権者約一六名に対し、合計約一二〇四万円の債務を負担し、支払不能の状態にあるとして、当裁判所に自己破産の申立てをし、平成五年三月一八日午前一一時一五分に同裁判所で破産宣告(同時廃止)の決定を受けた。

5  ところが、破産者は、破産事件の審問の際、故意の虚偽の事実を陳述した。

すなわち、裁判官から親族による援助の可能性を尋ねられた際、前記のとおり、バカラ賭博の件で約四〇〇〇万円の援助を得ていたことから、もはや援助を得られない状態であったところ、裁判官にバカラ賭博の件を隠すため(なお、破産者が破産の申立ての際、提出した報告書にもわざわざ「私はギャンブルは全くやらないのです」などと記載している。)、新宿や大森のクラブを毎晩のように飲み歩き、一晩に二〇ないし三〇万円使ったりしたため、一〇〇〇万円を超える借金を負担するようになり、これが今回の破産の原因である旨虚偽の事実を述べた(真実は、破産者は、体質的に酒を飲むことができず、毎晩クラブで飲み歩いたことはない。)。この説明を聞いた担当裁判官は、浪費の程度が著しいことから、この事件で免責を得ることは困難である旨告知して破産宣告をした。そこで、破産者は、免責申立てに際し、はじめて陳述書で前記バカラ賭博の件を裁判所に告白した。

6  破産者は、現在、弟が経営しているプロパンガス関係の会社に勤務して、月収約一五万円を得ており、また妻もパート収入として月に約一〇万円を得ている。また、住居は従前から実家のビルに住んでおり、家賃負担はない。

二  前記認定の事実を前提に、免責不許可事由の有無につき検討する。

同時廃止により処理する破産、免責事件は、職権調査主義を採用しているとはいえ、破産管財人による調査もなされないため、裁判所の調査範囲は限定されており、申立人自らの供述を信用し、それに基づき審理する方法を採らざるをえない。従って、申立人が、破産原因や財産状態につき、故意に虚偽の陳述をすると、審理の前提が覆され、適切な審理が不可能となる危険性をはらんでいることはいうまでもないところである。このような見地から考えると、破産者が破産事件の審問の際、故意に虚偽の陳述をすることは裁判所に対する重大な背信行為であり、誠実な破産者に対する特典としての免責制度の趣旨からは看過できないものである。そこで本件についてみるに、前記認定にかかる破産者の破産原因についての虚偽の説明は、賭博の経験を故意に隠蔽しようとしたもので、賭博による当時の負債額も巨額であることからすると、今回の破産には直接結びつかないとしても、破産、免責の審理に影響を及ぼすのは明らかであり、従って破産法三六六条ノ九第三号の「財産状態についての虚偽の陳述」に該当するものと解するのが相当である(破産原因についての陳述は、厳密には「財産状態」に該当しないといえないこともないが、破産原因と財産状態とは密接不可分の関係があり、前記条項の趣旨からして、前記条項に該当すると解するのが相当である。なお、破産法三六六条ノ九第一号、三八二条の同時破産事件への類推適用、あるいは同法三六六条ノ九第一号、三七四条三号、三七五条四号の消費者破産への類推適用と解することも可能である。)。

また、前記認定にかかる接待交際費の支出は、収入を超える支出を三年間も続けたというもので、自己の収入及び財産状態に比して必要で通常の程度を超えた支出をし、もって過大な債務を負担したというべきであるから、破産法三六六条ノ九第一号、三七五条一号に該当する免責不許可事由(浪費)も存するものと認められる。

そして、右事情は、いずれも軽微とはいい難く(破産者は、免責の際、自ら虚偽の陳述内容を告白しているが、これは前記認定のとおり、裁判官から免責が困難である旨告知されたことから真実を告白したにすぎず、この点を破産者に有利に考慮することはできない。)、裁量により破産者の免責を許可すべき特段の事情も見当たらない。

三  よって、本件免責の申立ては、これを許可しないこととして、主文のとおり決定する。

(裁判官 神山隆一)

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